- 著者
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椎名 健人
- 出版者
- 京都大学大学院教育学研究科 教育社会学講座
- 雑誌
- 教育・社会・文化 : 研究紀要 = Socio-Cultural Studies of Education (ISSN:13404008)
- 巻号頁・発行日
- no.20, pp.19-28, 2020-03-23
2019年9月現在放映中の『なつぞら』で通算100作目を迎えるNHK朝の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)は、1961年の第1作『娘と私』放映開始から現在まで50年以上途切れなく続き、そのほとんどが女性を主人公として、その内面や成長、人生を描き続けてきた。朝ドラに見られるこのような傾向については「近代社会において典型的な「成長物語」として流通したビルドゥングスロマン」(稲垣他, 2019)の一類型として捉える分析があるほか、(黄, 2014)は第1作『娘と私』から第87作『あまちゃん』までの極めて詳細な分析のもと、「戦争を生き抜く女性・母親」のドラマという要素を朝ドラの最も大きな特徴の一つと結論づけている。しかし(黄, 2014)、(牧田, 1976)らも指摘するように、現在朝ドラの代表的な特徴と捉えられている「女性主人公の人生や成長の物語」という枠組みは、実際には朝ドラ史上初めて「女主人公の一代記」というフォーマットを試みた第6作『おはなはん』(1966年)の記録的なヒットを受けて確立した様式である。第5作目『たまゆら』以前には高齢の男性を主人公に据えるケースがしばしば見られるなど、今の朝ドラのイメージとは大きくかけ離れた作品も多く存在した。本稿は朝ドラ第1作『娘と私』(1961年)から第6作『おはなはん』(1966年)までを分析の対象として、朝ドラの制作者側がどのような意図をもって「テレビ小説」企画を立ち上げ、また作品の方向性を定めていったのかについて、当時の民間放送局のドラマ制作体制との比較なども交え、主に小説への意識と映画への志向の二点を中心に考える。また当時の映画雑誌、テレビ雑誌における評論家の朝ドラ評を参照し、同時代の朝ドラがどのような受容のされ方をしていたのかを考察する。さらに後半では1961年-1966年の民放のテレビドラマを取り巻く状況について確認しながら、映画界とテレビ局の関係性の中でNHKの朝ドラが占めていた特殊な位置についても考察する。